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会長のことば

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第2ステージの教育自然学研究会における活動について

平成28年10月 会長 高畑尚之

 教育自然学研究会は、自然に対する理解を深め自然と人間の係わりを教育現場や医療の現場に活かすという趣旨で平成24年に設立されました。今年で5年目になります。 これまで設立の趣旨に従い、年度ごとに「自然の恩恵」、「自然の脅威」、「自然への感謝」、「自然と人との共生そして防災」と題する公開講演会、ならびに海と山のワークショップ、病院の見学会、学校林に関する合同研究会などを開催・実施してきました。しかし、自然と人間との係わりといっても幅は広く、また同時に深く追求することが必要な問題も多く、残念ながら本会の特色を踏まえた成果を社会に向けて発信するまでには至らなかったと反省しています。そこで、第1ステージと位置づけた3年間の活動の終了とともに、次の3年間の第2ステージでは、より焦点を絞った活動を行うことを基本方針としました。同時にもう一つ大切な視点として、会員の方々がお持ちの専門性や得意分野に配慮し、それを生かした活動を展開することとしました。
  このような基本方針や視点を踏まえて、第2ステージの教育自然学研究会では樹木(草花)に焦点を絞り、樹木と人の係わりを中心とした活動を展開することといたしました。樹木と密接に関連した本会会員の専門分野(具体的な課題)には、進化学(樹木との共進化)、医学(都市の子供達における肥満、高血圧、消化器疾患の増加傾向、視力、聴力等の五感機能の低下傾向には、樹林喪失が一要因であることを検証)、植物学(子供達に対する樹林の恩恵)、教育自然学 (「都市林」=学校林、病院林、地域林、「木育」=木とふれあい、木に学び、木と生きることを学ぶ活動)などがあります。本会ではこのような分野における研究活動や調査活動を日常的に展開し、その成果を公開講演会で発表するとともに成果集として取りまとめる計画です。
 

 以下では、このような全体計画の一部である進化学に関する研究活動をご紹介します。設定した課題は、「人はいかに自然と共生し進化してきたか—5億年にわたる樹木との関わり」としました。昨年はその1として、「陸上植物の誕生から霊長類の進化まで」にみられる顕著な共生関係をまとめてみました。その概要は下記の通りですのでご覧下されば幸いです。その2にあたる今年(研究集会は10月30日予定)は、「人類の誕生から農業革命まで」を調査研究する予定です。この時期の特徴は、ヒトが自然の一部であった存在から徐々に非自然的な側面を獲得していくことにあります。生活空間は熱帯雨林からサバンナのような開けた空間に移り、二足歩行をはじめ、社会性の発達とともに脳容量の増加が起こり、そしてついには言語・文化を獲得していく過程です。最後のその3は来年になりますが、「文明の誕生から現代まで」を考えることにしています。

(その1)「陸上植物の誕生から霊長類の進化まで」の概要
ヒト及びその祖先に限らず、共生は決して例外的なことではない。どの種も、どの個体もさまざまな他の種や個体と相互作用をする大きなシステムの一要素である。生命の歴史とはそうした相互作用の結果であり、相互作用による変遷の過程そのものである。ひとつの雄大な例は陸上生物である。生命は海で生まれたが、その大発展は陸を舞台に行われた。現在陸上生物は海の生物に比べて、種の数で10倍、バイオマスで100倍にもなる。この大繁栄はオルドビス紀(4.4億年〜4.9億年前)に最初に陸上に進出した植物(シャジクモの仲間とも地衣類ともいわれている)が、そこに「第2の海」を作り出し新しい共生の場を誕生させたことから始まった。その後陸上に進出した脊椎動物には四肢(手足)と指があるが、これらの発達には8000m級のカレドニア山脈の麓にあったデルタ地帯の倒木や落ち葉あるいは水草が重要な役割を担ったといわれる。さらに、中生代以降に繁栄した被子植物は、それまでの裸子植物とは異なって密集した樹冠を形成し、昆虫や霊長類が進化する環境を用意した。霊長類の強い握力をもつ手や指(対向するする親指)あるいは三色視や立体視ができる視覚の発達は樹上生活と関係が深い(ほ乳類の大半は、夜行性の祖先と同様に緑の色覚がない)。こうして概観しただけでも、今日の人類が有する多くの形態・形質的特徴がオルドビス紀以降の陸上植物との共生に強く依存していることがわかる。kaityo161008-1

 

 

 

 最古の樹木・アーキオプテリス(デボン紀)

 

 あいさつ平成24年10月)

 教育自然学研究会の設立にあたり会長として一言ご挨拶を申し上げます。 

 「私たちは、ある種の危険がはっきりとみえる時代に暮らしている。」こう警鐘を鳴らしたのは1973年のノーベル医学生理学賞受賞者であるコンラート・ローレンツでした。「文明化した人間の八つの大罪」のひとつが、自然は無尽蔵であるという迷信のために引き起こされた「生活空間の荒廃」、つまり自然の破壊だといいます。 事実、いま地球上では一万以上の種が絶滅の危機にあると試算されています。40億年に及ぶ生物の歴史を振り返ってみると、絶滅は決して例外的なことではありません。この6億年間には、6回もの大絶滅が起きたといわれています。しかし、過去の絶滅と現在進行中の絶滅とでは根本的に異なることがあります。それは過去の絶滅が不可抗力的な原因によるものであったのに対し、今回の絶滅は人間自身が直接的な原因となっていることです。 20世紀になって、人類は科学を原動力として様々な道具を生み出し、飛躍的な発展を遂げました。しかし、人類は自らが創造した道具によって有り余る力を発揮し、自らをそして母なる地球をきずつけるまでになっています。21世紀がこのような延長線上にはあり得ないことは、すでに多くの人が自覚しています。それにもかかわらず「生活空間の荒廃」はいまも続いていますし、このことと密接な関係にあるもうひとつの大罪、「感性の衰滅」は社会的な問題となっています。 このような深刻な状況にあって、人間と自然との係わりを改めて問い直す必要があります。このために設立されましたのが、この教育自然研究会でございます。

 本研究会の大きな特色は、教育と医療という具体的な現場に立脚した活動を企画している点にあります。結果的に多様な方々が関わることになりますが、一人ひとりの分野や専門を超えた議論と活動を展開することが重要かと存じます。ひとりでも多くの方がこのような会の主旨に賛同され、参加下さることを願っています。最後になりましたが、本研究会の設立に至るまでには世話人の方々に多大なご尽力をいただきました。この場を借りて厚くお礼を申し上げます。

 教育自然学研究会 会長 高畑尚之 (総合研究大学院大学長)

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